2018-11-29
「溶接した部材の表面だけを見れば、彼の溶接とロボットの溶接は見分けが付きません。しかし、裏を見るとロボットが溶接したワークはでこぼこで、溶け込み方が明らかに違う。『今のロボットは最高の溶接をする』と言う人もいますが、肝心の溶接品質という点でまだまだ人間に敵わないのです」
「溶接作業を進める中、母材の温度が上がれば溶けやすくなります。技能者は湯(溶けた金属)の流れ、溶着の様子を見たり、音を聞いたりしながら、スピードや角度をコントロールしています。こういった人間の感覚を全部解析し、ロボットに教えられれば、いずれ彼の溶接を再現できる。今はまだ難しいですが、それに成功すれば誰がやっても同じモノができるし、自動化や量産化につながります」
「だからこそ、ロボットより上手な溶接をする人を育てる必要がある。でないと進歩が止まってしまいます。自分ができなかったらロボットに教えられない。溶接全国2位の技能者にも『次は1位を目指せ』と発破を掛けていますよ」
「今の設備やロボットよりも腕がいい人を育ててそれを機械に移植する。技能と技術が常にスパイラルアップし、新しいモノを作っていく。そういう世界が大事です。自動化とITが大嫌いな私が手作業にこだわるのは、それが理由なのです」
2/7の記事も講演の中で語られた。
「手作業で工場カイゼン トヨタ副社長「競争力の源泉」
トヨタ自動車が手作業による技能の育成に力を入れている。電動化や自動運転、IT(情報技術)によって車業界は100年に一度の変化を迎えた。投資が膨らむなか、品質とコスト低減の両立が競争力のカギを握る。50年以上、生産現場にかかわる河合満副社長は「品質や安全、ロボットの技能の源泉は人の手作業や感性にある」と説く。
トヨタは品質や安全、ロボット技術の土台となる手作業へのこだわりを強めている(愛知県豊田市の本社工場)
「30歳代の優秀な人材を徹底的に鍛えよう」。ロボットやITの導入が進む中、原点に立ち戻るきっかけは河合副社長の危機感だった。5年ほど前に塗装で最も優れた匠(たくみ)の技を持つ従業員を探すと63歳だった。2番手は60歳で「さらに技能レベルの差は八掛けで、10年で競争力がなくなるのでは」(同)と痛感した。
トヨタ自動車の河合満副社長(6日の決算発表についての記者会見)
トヨタの商品力は良品廉価にある。河合副社長が入社した1966年は2工場で、生産は30万台規模だったが、現在は世界で900万台(単体)を製造する。機械任せの自動化ではなく、人の優れた技能と知恵をロボットに移し、より簡単で安く、柔軟性のある工夫を続ける「自働化」を原則にする。だが2002〜07年は世界中で新工場が稼働し、生産能力は毎年50万〜70万台増えた。「量をこなす生産設備に頼り、知恵や工夫が足りなかった」(同)とみる。
機能満載の設備は少人数での稼働が難しく、需要の変化に弱い。そこで5年ほど前から30歳代の「高技能者育成」制度で、技能研修や海外工場での修業を始めた。すでに約300人が修了し、ムダのない生産設備の開発に効果が出始めた。
老朽化による火災や爆発への対策も人を中心に据える。安全装置の導入も進むが、河合副社長は「すべてハードで補うことはできない。壊れたらどうするのか。人がセンサーにならないといけない」と強調する。17年には本社近くに過去の事故を学び、燃えやすい素材も展示する「防火・防爆考動館」を新設し、意識を高める。
トヨタは09〜12年度に年平均で6000億円規模の収益改善をしたが、13〜17年度は先行投資や販売費の増加で、収益改善力は落ちる。かつてない競争の中、生産現場の創意工夫の重みは増している。(工藤正晃)
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