『失敗の本質』ブームに思うこと
2017-01-23


2016.11.17のFBから転載。
 今日、丸善に行ったら、中公文庫『失敗の本質』が3X3列で平積みされていた。破格の扱われ方だ。東北大震災後、池田信夫氏が紹介してブームになって以来、又してもブームか、とググると小池都知事が9/23の定例記者会見で豊洲問題の報告として「座右の書」を引用したらしい。アマゾンで検索するとベストセラー1位にランクされた。30年前の本がベストセラーかつロングセラーになっている。
 読売新聞からコピペすると「私の座右の書が『失敗の本質』というタイトルで、日本軍がいかにして負けたかという本です。楽観主義、それから縦割り、兵力の逐次投入とか、こういうことで日本は敗戦につながっていくわけですけれども、都庁は敗戦するわけにはいきませんので」と述べた。
 しかし、本書は店頭で手には取るがいつも置いた。
 積読でも買うことの多い私であるがなぜか、拒否反応がある。それは日本軍の組織論的研究という副題である。
 戦争を知らない学者たちが後講釈から学ぶことはあるか。囲碁でも将棋でも岡目八目というように当事者でなければ欠点を指摘しやすい。ましてや日本軍の責任者は絞首刑になった。反対尋問はあったというが通らなかっただろう。始めに処刑ありきだ。
 執筆陣は戸部良一(1948〜)は歴史学者、寺本義也(1942〜)は経営学者、鎌田伸一(1947〜)は経営学者、杉之尾 宜生(1936〜)は戦史研究家、村井友秀(?)、野中 郁次郎(1935〜)は経営学者の6名。
 日本の敗戦を一方的に失敗と決めつけているところに引っかかる。 戦前の日本は人種差別撤廃を主張した。アジアの植民地解放を願った。
 個々の戦いの戦略はあいまいではっきりしなかったが大東亜戦争の目的は達成したのである。
 識者はアメリカが経済制裁で仕掛けてきた戦争という。この本の巧妙さはここまで踏み込まなかったことだ。
 歴史に「・・・たら、・・・ればはない」という。
 そんなわけでいつも立ち読みで終る。
追記
 後でふと浮かんだ。この本の研究手法はメディアの考え方そのものではないか。つまり、歴史、日本とアメリカの民族の気質即ち狩猟民族と農耕民族の違い、当時の政治経済の状況、外交の状況といった要素をすべて排除して負け戦だけを針小棒大に追及する。
 相手の弱点だけをとらえてメディアで拡散すると分かりやすいから受けるのだ。
 この本をツイッターで紹介した池田信夫氏は元NHKで当時の民主党政権の震災の対応ぶりの拙劣さを攻撃する文脈で用いている。
 9月に愛読書と紹介した小池百合子氏は元テレビのキャスターだ。豊洲の問題で前任者の責任追及の文脈で用いた。
 なるほどメディア受けするわけだ。
 おそらく企業の幹部研修のテキストでも多用されているにちがいない。幹部研修といえば、新田次郎『八甲田山死の彷徨』もウィキに「企業研修や大学において、リスクマネジメントやリーダー論などの経営学のケーススタディに用いられることがある。」とある。
 書名でググるとこれで研修テキストにするサイトがあった。そこでは後知恵の講釈を排したと断っている。この小説も成功と失敗の対立を描いて成功した。史実とは違うが新田次郎はあるいは編集者が読者受けを狙って脚色したのだろう。
 民主党政権以前の自民党の政治家も失言をとらえて前後の文脈をカットして攻撃されて辞任に追い込まれた。
 読者受けする本の書き方はこうすると売れるという見本になる。
 一方、同じ著者グループが姉妹編として書いた『戦略の本質』は余り部数が出ていない。コメント数で類推すると28件、『失敗の本質』は280件とかなり多く、1984年と2005年の時間差もあるが受けなかった。出版界には正編に優る続編はないというジンクスがあるという。その通りだね。
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