2016-04-03
読売新聞から
病気やけがで医療機関に入院したときや老人ホーム入居時に、必ずといっていいほど求められる身元保証人。費用の支払いに連帯して責任を負うだけでなく、緊急時などに本人に代わって治療・介護方針を決め、葬儀や納骨にも対応する。そんな役割を引き受けてくれる事業者がある。“おひとりさま”にとっては力強い味方だが、大手の「日本ライフ協会」が破綻し、動揺が広がっている。老後の備えを考える上で知っておくべきことは何か。「 老人ホーム選びの落とし穴…こんな施設はやめておけ! 」の筆者で、介護・医療ジャーナリストの長岡美代さんにリポートしてもらった。
全国に100か所以上の事業者〜葬儀や納骨にも対応
自分にもしものことがあったとき、どうすればよいのか。身寄りを頼れない人にとっては、切実な悩みだ。昨今はそうしたニーズをすくいとるように、一定の料金を払えば身元保証人を引き受けてくれる民間事業者が増えている。インターネットで検索するだけでも多数の事業者がヒットし、一説には少なくとも全国に100か所以上あるといわれる。身元保証のみならず、入院時の身の回りの世話や緊急時の駆け付け、死亡後の葬儀や納骨などにも対応し、まさに家族のように頼れる存在となっている。
広がる不安〜「心が傷ついた」
その大手の一角を占めていた公益財団法人「日本ライフ協会」(東京都港区、濱田健士代表)が3月18日、内閣府から「公益目的事業を行うのに必要な経理的基礎がない」として公益認定を取り消されたうえ、同月末での破綻が決まり約2500人の会員には不安が広がっている。
「払い込んだお金が戻らないことよりも、心が傷ついた」
こう憤る大阪府在住の佐藤直子さん(60歳、仮名)は夫を早くに亡くし、入院時の身元保証などを頼みたいと数年前、協会の会員になった。
「外出先で転んで骨折したときには、スタッフが自宅まで送ってくれて助かりました。電話一本でいつでも飛んできてくれるので頼りにしていたのに……」と、言葉を詰まらせる。ひとり暮らしの佐藤さんにとって、協会は老後を託す大きな存在だっただけにショックを隠しきれない様子だ。
発端は今年1月、協会が会員から受け取っていた総額約8億8000万円の預託金のうち、約2億7000万円の不足を生じさせていることが明らかになったことだった。公益法人を監督する公益認定等委員会が協会に対し、早急にその回復計画を策定するよう勧告したのが始まりだ。
預託金は戻ってくるのか
協会のパンフレットによると、基本プランでは一括で約165万円を払えば終身にわたって入院時などの身元保証を受けられるほか、定期的な安否確認や緊急時の駆け付けなどにも応じてもらえることになっていた。このうち約58万円が将来の葬儀や納骨などに充てられる預託金だった。
勧告後、協会では会員の解約が相次いだほか、新規会員の獲得も見込めなくなったことから事業の継続を断念。当初は民事再生手続きが進められる一方、会員へのサービスを継続させるべく事業の譲渡先も決まっていた。だが一転、その譲渡先が先ごろ、辞退を表明したことから協会の破綻が決定。サービスも打ち切られることになった。負債総額は約12億円に上るとされ、預託金が会員にいくら戻ってくるかは不透明なままだ。
会員増を背景に事業を拡大、資金繰りが悪化
それにしてもなぜ、今回のような事態が起きたのか。そもそも協会は、弁護士や司法書士ら第三者の事務所で預託金を管理する「三者契約」で安全性をアピールし、2010年7月には税制面の優遇が受けられる公益法人の認定も受けていた。
ところが、そのわずか数か月後、濱田代表は協会が預託金を直接管理する「二者契約」を勝手に決め、手元に入ってくる預託金を、資金繰りに困っていた関連のNPO法人に貸し付けるようになった。関係者によると、流用は11年から始まっていたようだ。
セ記事を書く