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守屋淳の、ビジネスに生かせる『論語』と『韓非子』(7) 〜性悪説にもとづく組織論〜
「法や権力を使わないと、組織はうまくまとめられない」
という思想を集大成したものなのです。では、なぜ先達たちはこうした考え方を抱くに至ったのか。孔子と同時代の名政治家として知られた子産(しさん)に、端的な指摘があるのでご紹介したいと思います。
私の後を継いで国政を担う人物は、あなたをおいて他にいない。参考までに私の話を聞いて欲しい。私は政治には二つの方法があると思う。
一つはゆるやかな政治、もう一つは厳しい政治だ。ゆるやかな政治で人民を服従させるのはよほどの有徳者でないと難しい。だから、一般には厳しい政治をとった方がよいのだ。
この二つは、たとえてみれば水と火のようなもの。火の性質は激しく、見るからに恐ろしいので人々は怖がって近寄ろうとしない。だから、かえって火によって死ぬ者は少ないのだ。ところが水の性質はいたって弱々しいので、人々は水を恐れない。そのためにかえって水によって死ぬ者が多いのである。ゆるやかな政治は水のようなもの、一見やさしそうだが、実は非常に難しい。『春秋左氏伝』
子産は政治のあり方というものを、
ゆるやかな政治=水=徳治
厳しい政治=火=法治
という対比で語っていますが、ここには「徳治」の問題がそのまま炙り出されています。
すなわち、「ゆるやかな政治で人民を服従させるのはよほどの有徳者でないと難しい」というのが、
徳の高い人物はそうそういない。今はいても、後々続かなくなる。
徳を持った人物自体、変節してしまうことがある。
という問題とまず繋がってきます。有徳者は数が少ない。しかも、変節せずに有徳者であり続ける人はもっと少ないのです。
また、「水の性質はいたって弱々しいので、人々は水を恐れない」という部分が、
現場の暴走を止める術がない
自分を育んでくれた先輩や上司が悪いことをしても、とがめられなくなる。という問題と直結してきます。ゆるやかな統制しかできない「徳治」では、現場や悪意ある者の暴走を止め切れなくなってしまうわけです。
こうした問題の解決策として、まず重要視されたのが「法の徹底」に他なりませんでした。
3 法やルールを守らせるためには
皆さんも会社や職場で、規則やルールを作ったりすることがあると思いますが、このときに大原則が一つあります。それを示したのが、次の言葉です。
法は貴きに阿(おもね)らず、縄は曲がれるに撓(たお)まず。
法の加うる所は、智者も辞する能わず、勇者も敢えて争わず。
過ちを刑するには大臣をも避けず、善を賞するには匹夫をも遺さず(法律の条文は、相手の地位が高いからといって曲げることはない。線を引くものさしは、相手が曲がっているからといって、それに合わせて曲がることはない。いったん法が適用されれば、智者でも言い逃れることができず、勇者でも抗うことができない。罪を罰するのには、重臣でも避けないし、善行は庶民でも漏れなく賞する)『韓非子』
つまり、公平性が何より重要だというのです。会社でも「職場のルール? 私は専務だから関係がないよ」「オーナーの親族の私に規則を守れというの」などと言う人がいたら、それは機能しなくなってしまうわけです。
ただし、法やルールは、公平に適用されたとしても、皆が守ってくれるとは限りません。実は今の日本の法律にも、こんな例はいくらでもあります。その端的なものが飲酒運転です。中略
法やルールは、「それを守らないとマズイ」と思わせる何かがないとなかなか守ってくれない面があるのです。韓非はその何かを、「権力」に求めました。